第5回「本、書店、図書館にまつわるエピソード大賞」受賞者・エピソードのご紹介
本、書店、図書館にまつわる"ちょっといい話"を募集したところ、47編の応募をいただきました。
選考の結果、大賞1編、優秀賞2編、本部門賞1編、書店部門賞1編、図書館部門賞1編が決定しました。
受賞者には、表彰状と副賞(図書カード)を贈呈します。
大賞
「本との出会いで変わった私」 土井 彩花 さん
「何で本なんかあるんだろう。本なんか必要ない。」私はついこの間までそう思っていました。今年、高校生になり、新しい環境で学校生活を送ることをとても楽しみにしていました。しかし、現実は違っていました。小中学校で仲良くしていた友達は一人もいなかったし、話せる人もいませんでした。私はありのままの自分を出すことが怖くなり、偽りの自分を作って、毎日苦しい日々を送っていました。そんな時、母が「ぼくモグラキツネ馬」という本を読んでくれました。「一番の時間の無駄は誰かと比べること」「一番強かったのは弱みを見せることができたとき」「ぼくは、ぼくのままでいいってこと」私はこの言葉と出会って、素の自分でいても良いんだと思うようになりました。本は人生の悩みのヒントを与えてくれたり、励ましてくれたりするものだと気付きました。これからは本との出会いを大切にして、たくさんの本を読んでいきたいと思います。
受賞者からのコメント
本が嫌いだった私にとって大賞に選ばれたことはとても驚きでした。この本は自分らしさや仲間の大切さに気づけるだけでなく、「人生とは何か、自分はどういう人になりたいのか。」を考えさせてくれます。この受賞を機に本との出会いを大切にして、色んな世界を冒険したいと思います。
優秀賞
「本がひらく私の世界」 岡村 帆乃佳さん
本を探しに、語り合う人、夢、自分を探しに私は図書館の扉を開く。3年生になり、昼休みに学校の図書館に行く機会が増えた。私が同じ系統の本を読んでいたのか、ある日、司書の方に「豊かさとは何か」を勧めて頂いた。筆者の鋭い視点に、はっとして3冊シリーズを夢中になって読んだ。常識を疑う。当たり前の毎日が少しずつ変わり始めた。それからは、本を返却する度に司書の方と感想を共有、意見をすり合わせることが習慣になり、話の中で出てきた本を、芋づる式に読んだりもした。私の中で図書館の存在が大きくなった。高校3年生、思い悩むことも多々あったが、人には言えないことも、本にはこっそり明かすことができた。主人公を自分に準え、学んだ事を実生活に活かすなどして、自己実現を目指してきた。しかし今、自分が正しい、当たり前だと思っている事が将来変わってくるかもしれないし、そうであって欲しいとも思う。これからも、本と共に生きていきたい。(利用した図書館:鳥取東高校図書館)
受賞者からのコメント
この度、数ある作品の中から優秀賞に選んでくださり、心から嬉しく思います。また、私自身のエピソードを語る機会をいただいたことにも重ねて感謝申し上げます。自ら本に向きあうようになり、本によって彩られていく毎日が新鮮でした。私のエピソードが誰かの本を読むきっかけになれば幸いです。
優秀賞
「気付き」 田村 綾梨 さん
受験を控えた中学3年生の私。志望校で開催された自己啓発セミナーに参加した。好きなこと、苦手なこといろんなことを話した。本を読むことが好きな私は、人とコミュニケーションをする時、自然と本の話を絡めて話をしていることに気が付いた。今までの人生の中でも本を通して出会ってきた人がいることを再確認することが出来た。演出家の先生が大好きな本について好きなだけ話を聞いてくれた時、すごく嬉しかったこと。憧れの那須正幹先生とお会いして先生の本が大好きだということを伝えた日。絵本作家の方の対談に参加して大笑いした日。イギリスからホームステイに来たお姉さんとハリーポッターについて熱く語った日。本を通して私の人生は豊かになっていることを自己啓発セミナーで改めて感じた。志望校の図書室をちょっと覗いてみた。4月になったら、この図書室に通ってみたいと思った。幸せな時間を過ごせる場所を見つけた。
受賞者からのコメント
このようなすばらしい賞をいただきありがとうございます。コロナ禍で本を読む機会が以前より増えました。これからもたくさんの本を読んで、人とつながっていきたいです。
本部門賞
「本がとりもつご縁」 吉岡 弥香 さん
幼い頃から人見知りが激しく、人前で滅多に口を利かない子供でした。それはもう、親がやきもきするほどに。そんな私が見つけた楽しみが読 書でした。時は流れ、人の親となりました。子供の通う学校で読み聞かせボランティアを募っていました。先生からも声をかけてもらいましたが、なかなかいいお返事ができません。ある日、寝る前の読み聞かせで、娘が 「お母さんが読んでいるのをみんなにも聞いてもらいたい」とポツリ。 娘の言葉に背中を押され、震える手でページを捲り、ちゃんと届いているのか不安になるような声で始めた初日。あの日から5年が経ちました。でも今だに毎月読み聞かせの日が近づくと緊張が募り、つい図書館へ通い詰めてしまいます。子供達のキラキラした眼差しにパワーを貰いながら続けられています。今では、学校外で出会う時にも子供達から声をかけてくれるようになりました。本を通じて、今とてもありがたい体験のさなかにいます。
受賞者からのコメント
お知らせから、嬉しくて暫くふわふわと過ごしました。本が好き過ぎる故のエピソードはたくさんあり、中でも私を変えてくれた出来事です。書くことは好きですが応募に二の足を踏んでいたところ、再び娘に背中を押されました。この度は本当にありがとうございました。
書店部門賞
「音信不通」松田 裕史 さん
秋の深まるあの日の夕方、定有堂へ行った。なぜだかその日は、普段は視界に入らないレジカウンターの向かいに何か置いてあることに気づいた。無意識に手に取ったのは小冊子「音信不通」。表紙に配列された寄稿者の一覧に目を走らせる。ある名前で眼球が一瞬停止。前ぶれもなく突然退職された恩師の先生の名前。虚を突かれると同時に心の中で快哉を叫ぶ。それこそ音信不通だった先生だ。おもむろに中を開く。肩書の「地球探究家」が目に入った瞬間、二度目の快哉を叫ぶ。高校一年の頃、先生は「逆境をこそ愛せ」と板書されたことを覚えている。その言葉と字義通りの音信不通とが浅はかな僕の中ではリンクせずにいた。しかし、既刊の「音信不通」も読み進めるとミッシングリンクは新たな学びの輪に変化した。音信不通にピリオドを打った「音信不通」。うまく僕に誤配された「音信不通」がきっかけとなり、僕も寄稿者の末席に名を連ねることとなった。
受賞者からのコメント
晩秋の木立の中で、森閑と人知れず落ち葉が降りつもり、まだ見ぬ春の生命体の養分となるように、いくつかの縁が偶有的に重なり合うことでこの賞を受賞させていただいたと思います。本が織りなす豊潤なビオトープ(=生態系)に身をゆだねることで生まれるケミストリー(=化学反応)をこれからも楽しみたいと思います。
図書館部門賞
「湖水地方の青い花」 森田 亜津子 さん
2年半近く前、湖水地方をメインに1週間のイギリス旅行に出かけた。湖水地方には、ピーターラビットの作者ビアトリクス・ポターが住んでいた村がある。数多くの湖の中でも最大のウィンダミア湖を見下ろす丘に上がるときのことだった。草叢にコバルト色をした四弁の小さな花を見つけた。30センチほどの草丈の先端にひとつだけ咲いていた。帰国後、私は花の名が知りたくて県立図書館へ行った。撮ってきた写真を見せて相談した館員さんは、何冊か本を探して下さり、一緒に調べて下さった。ネットでも検索し、随分時間をかけていただき、とうとう分かった!葉序からみても「樺太比翼草(からふとひよくそう)」だと。シベリア、樺太などが原産らしい。一生懸命対応して下さった館員さんにとても感謝した。嬉しかった。東北大震災の後、宮城県から40年ぶりにUターンし、知人も少なかった私にとって県立図書館は、大きな救いであった。そして、館員さんの親切に遭えば、なおさらだった。(利用した図書館:鳥取県立図書館)
受賞者からのコメント
ユーターンして11年、身近に図書館があることに助けられてきました。昨年末、図書館で「エピソード」を募集するチラシを見つけた時、日頃の感謝をお伝えするよい機会だと思い、応募させて頂きました。県立図書館や館員の皆様に少しでも私の感謝の気持が伝われば嬉しいです。ありがとうございました。
小中学生部門は、該当者が優秀賞に選考されたため、部門賞の受賞者なし。